15年後に必要とされる仕事を、いま、毎日している——フィットネスの現場で、これから求められる2つの力
いま、日本でいちばん同級生が多いのは、50代前半から半ばの人たちだ。
1971〜74年生まれの「団塊ジュニア」。いちばん多い1973年には、約209万人が生まれている。この世代が70歳前後になる15年後、日本は高齢者の数がいちばん多い時代を迎える。
私たちは、フィットネスジムを運営しながら、この「15年後」のことをよく考える。そして、そのたびに、自分たちの仕事の意味を考え直す。
この記事は、私たちがどんなことを考えて、毎日この仕事をしているのかを書いたものだ。
2040年、「支える人」も「お金」も足りなくなる
数字を並べてみる。
- 65歳以上の人口は、2040年代前半にピーク(約3,900万人台)を迎えると推計されている
- 介護職員は、2040年度に 約272万人 必要になる。2022年度より 約57万人 多い
- 国民医療費は、すでに 年間約47兆円(2022年度)に達している
人手も、お金も、いまのままでは足りない。これは悲観論ではなく、国の推計そのものだ。
介護の現場は、いまも人手不足が続いている。体を支え、生活を支え、ときには人生の最後の願いや、わがままとも思える思いまで受け止める。心身ともに本当に大変で、尊い仕事だ。その担い手を、これからさらに57万人増やさなければならない。
だとしたら、社会全体でやるべきことは、もうひとつある。介護が必要になる人を、そもそも減らすこと だ。
私たちの仕事は、介護の「手前」にある
介護は、できなくなったことを補う仕事だ。
フィットネスは、その手前で、「まだできる」を守り、伸ばす仕事 だと、私たちは考えている。
病気ではない。でも、なにもしなければ少しずつ弱っていく。いわゆる「未病」の時期の人たちに、いちばん長く、いちばん近くで関われるのが、フィットネスの現場だ。
その現場で、これから求められる力が、2つあると私たちは考えている。
ひとつめ:未病に「コスト意識」を持ってもらう
人は、病気になれば迷わずお金を払う。でも、元気なうちの予防には、なかなかお金も時間も使わない。「まだ大丈夫」だからだ。
この「まだ大丈夫」の人に、いま体に投資する価値を、納得してもらう。私たちは、これをとても大事な仕事だと思っている。
筋肉は、30歳代から少しずつ減り始める。 何もしなければ、10年ごとに3〜8%ずつ。60歳を過ぎると減り方が速くなり、70歳を過ぎると10年で15%ほど減るという報告もある。
そして、筋肉だけは、誰かに「代わりに筋肉をつけておいて」と頼むことができない。飲むだけで筋肉が増える薬もない。 自分の体を動かす以外に、筋肉を増やす方法はない。
だからこそ、フィットネスが大切なのだ。
伝えていることは、3つに集約される。
- 筋肉量 ── 筋肉は、食事でとった糖を受け止める、体でいちばん大きな受け皿。量が多いほど、血糖や代謝の面で体を助ける
- 筋力 ── 立つ・歩く・踏ん張る力。転倒や、その先の介護を遠ざける土台になる
- マイオカイン ── 筋肉は動かすと、全身にはたらきかける物質を出す。筋肉は、体を動かすだけでなく「分泌する器官」でもある
ただ、知識を話すだけでは、人は動かない。これは、現場で何度も思い知らされてきたことだ。
だから、相手の生活や不安に合わせて、伝え方を変える ことが欠かせない。QuickPlusGym では、マシンが毎回の筋力を記録する。その 「数字」で、変化を一緒に確かめる。「なんとなく良さそう」が「やる理由がある」に変わる瞬間は、何度立ち会ってもうれしい。
ふたつめ:「続けてもらう」
ふたつめは、もっと難しい。
運動は、続けなければ効果が出ない。そして、ほとんどの人は続かない。
ブラジルのジムで、新規入会者5,240人を追った研究がある。3か月以内に63%が、12か月で96%が、通うのをやめていた。 日本でも、トレーナーの坂詰哲也氏が「多い店舗では8〜9割が1年以内に退会している」と書いている。
1年で9割以上がやめていく世界で、それでも続けてもらう。 これができる人は、業界全体を見渡しても、まだ多くない。だからこそ、これから価値が上がっていく力だと考えている。
AIが負荷を決めても、人を動かすのは人
QuickPlusGym では、AIマシン「Extrec」を使っている。AIが力を細かく感じとり、その人に合った負荷をその場で調整する。AI時代の筋肉は、AIに増やしてもらう ── 私たちはそう考えている。
でも、AIにできないこともある。
その人がなぜ来なくなったのかに気づくこと。「もう一度やってみよう」と思わせること。続けた先にある未来を、一緒に描くこと。筋肉だけはAIに代替させられない のと同じように、人の心を動かし、続けてもらう力も、AIには代替させられない。
15年後に「この仕事があってよかった」と言われるために
15年後、団塊ジュニアの世代が70歳前後になったとき。運動の価値を伝えられて、続けてもらうことができる人は、ジムの中だけでなく、地域の介護予防の場や、企業の健康づくりの場でも、きっと求められている。
そしてその力は、現場での毎日の積み重ねでしか身につかない。
だから私たちは、今日も、目の前の一人と向き合う。15年後の日本で、「この仕事があってよかった」と言われるために。
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※参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」/厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(2024年7月)/厚生労働省「令和4(2022)年度 国民医療費の概況」/Sperandei S, et al. Journal of Science and Medicine in Sport, 2016/Volpi E, et al. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2004/坂詰哲也『いちばん効率がいい すごいジム・トレ』(東洋経済オンライン掲載記事より)
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