速く動く筋肉から、先に減っていく──「駆け上がれない」の正体
連載「衰えません、死ぬまでは──90秒からの、ささやかな反抗」の第2回です。
前回、私はこんなことを書きました。階段は、今でも問題なく上れます。ただ、駆け上がれなくなりました。——上れるかどうかではなく、速さのほうが先に落ちていた、と。
今日は、その続きです。なぜ、速いほうから先に失われるのか。ここには、けっこうはっきりした理由があります。
筋肉は、一種類ではありません
ひとくちに筋肉といっても、なかを覗くと性格の違う繊維が混ざっています。大きく分けて二種類です。
- 遅筋線維(タイプI)──ゆっくり、長く働くのが得意。姿勢を保つ、歩き続ける、といった場面で主役になります。疲れにくいかわりに、大きな力は出せません。
- 速筋線維(タイプII)──短時間に大きな力を、素早く出すのが得意。とっさに足を踏み出す、つまずいて体勢を立て直す、重いものを持ち上げる。そういう「一瞬」の担当です。疲れやすいのが弱点です。
マラソン向きの繊維と、短距離向きの繊維が、同じ筋肉のなかに同居している——そんなふうに思っていただければ十分です。
年齢とともに減るのは、速いほうでした
ここからが本題です。加齢で筋肉が減るとき、この二種類は、同じようには減りません。
1988年に発表された有名な研究では、太ももの外側の筋肉(外側広筋)を詳しく調べたところ、20歳代と80歳代では筋線維の数そのものが大きく違っていたと報告されています。そして数だけでなく、速筋線維のほうが、遅筋線維よりもはっきり細くなっていた——つまり、速いほうが選ばれるように痩せていくことが示されました。
持久の筋は、比較的よく残る。
とっさの筋から、先に失われていく。
だから、こうなります。歩ける。上れる。買い物にも行ける。日常の「長くゆっくり」は、しばらく保たれるのです。ところが、駆け上がる、飛び越える、とっさに踏ん張る——「速く・強く」だけが、先に手から抜け落ちていく。
実際、年齢とともに筋力(どれだけの重さを動かせるか)よりもパワー(それをどれだけ速く動かせるか)のほうが早く落ちていくことが、複数の研究で報告されています。前回お伝えした「量より力が先に落ちる」の、さらに先があったわけです。
量 → 力 → 速さ。失われる順番は、だいたいこうなっています。
そしてこの「速さ」は、日常のなかでいちばん気づきにくい能力でもあります。誰も、駅の階段を駆け上がるテストを毎年受けたりしません。だからある日、つまずいたときに、はじめて気づく。転倒との関連が指摘されているのも、ここです。
ただし、「測れる衰え」もあります
気づきにくいと書きましたが、手がかりがないわけではありません。専門の学会が目安として使っているのが、握力と歩く速さです。
アジアのワーキンググループが2019年に示した基準では、握力が男性28kg未満・女性18kg未満、6mを歩く速さが毎秒1.0m未満が、ひとつの目安とされています。毎秒1.0mというのは、横断歩道の青信号でだいたい渡りきれるかどうか、という速さです。
興味深いのは、この基準がその後より若い年代にも広げられたことです。2025年の改訂では50〜64歳の中年層も対象に含められ、その年代向けの目安として握力が男性34kg未満・女性20kg未満が示されました。
数字そのものより、私はこの変化のほうに驚きました。「高齢になってから調べる」から、「若いうちから保っておく」へ。専門家の見方の重心が、はっきり前へ移ったということだからです。
なお、これらはあくまで研究や診療で使われている目安であって、ご自身で当てはめて何かを判断するためのものではありません。気になる数字が出たら、かかりつけの先生にご相談ください。
ここからが、いい話です
速いほうから減る。気づきにくい。……暗い話が続きました。ここからが、今日いちばんお伝えしたかったことです。
筋トレを始めた方が、こうおっしゃることがあります。「見た目は全然変わらないのに、なんだか体が軽い」と。気のせいではありません。
筋力トレーニングを始めてから最初の数週間で起きる変化は、筋肉が太くなること(筋肥大)ではなく、神経の側の変化が主だと古くから報告されています。眠っていた筋線維に、脳からの信号がきちんと届くようになる。動員される数が増え、タイミングが揃う。同じ筋肉のまま、出せる力だけが先に増えるのです。
鏡の前が変わるより先に、階段のほうが軽くなる。
そして、ここが大事なところです。この「動員」で真っ先に呼び戻されるのが、長く出番のなかった速筋線維です。しばらく使われずにいた一瞬の担当に、もう一度声がかかる。だから、見た目が変わる前に「とっさ」のほうが戻ってくる。
筋肉の運動単位には、弱い力では小さいものから、強い力を出すときにはじめて大きいものが動員されるという順番があることが知られています。裏を返すと、のんびり軽く動かしているだけでは、速筋にはなかなか声がかからないということでもあります。速いほうを呼び戻したいなら、しっかり力を出す瞬間が要る——残念ながら、ここは避けて通れません。
だから、90秒に賭けています
とはいえ「しっかり力を出す」は、ひとりでやるのがいちばん難しいところです。重さを軽くすれば安全だけれど届かない。重くすれば届くけれど危ない。この加減を、毎回きちんと当てるのは至難の業です。
QuickPlusGymの設計は、ここを機械に任せています。
- 強度は、AIが決めます──AIマシン「Extrec(エクストレック)」が、あなたがいま出している力を0.1秒単位で感知し、「限界の少し先」の負荷をリアルタイムに与え続けます。重さを選ぶ必要も、回数を数える必要もありません。
- 戻す局面にも、負荷がかかります──押す・引く局面だけでなく、戻す・下ろす局面(エキセントリック)にもそれぞれ負荷を設定します。自分で重さを選ぶマシンでは効かせにくい領域です。
- 持ち上げる重りがありません──落下によるケガの心配がない構造です。強度を上げても、重りが落ちてくることはありません。
- 時間は、短く固定します──1種目90秒。3種目やっても運動している時間は約5分、来店から終了まで約10分です。手ぶらでOK、着替え不要。
正直に申し上げると、90秒のあいだ、きついと感じる瞬間は必ずあります。速筋に声をかけるというのは、そういうことだからです。ただ、その瞬間は90秒のなかにしかありません。長く頑張る必要はない——これが、この連載でずっとお伝えしてきたことです。
AIやロボットがどれほど進化しても、あなたの筋肉だけは、誰にも・何にも代わりに増やしてもらえません。だからこそ私たちは、AIの力を「筋肉を増やすお手伝い」に使うことにしました。AI時代の筋肉は、AIに増やしてもらう。
次回は、この連載の元になった本の第3話——「筋トレを続けるためには、前向きになりすぎないこととする」——を受けて、続ける話を書きます。じつは、あの脱力した結論のほうが、科学的にも筋が通っているのです。
階段を駆け上がれなくなったな、と心当たりのある方へ。イトーヨーカドー大森店3階のQuickPlusGymで、無料体験を受け付けています。手ぶらでOK、しつこい勧誘もありません。お電話(03-6410-8919)または予約フォームから、お気軽にどうぞ。
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- 衰えません、死ぬまでは──90秒からの、ささやかな反抗——連載第1回。衰えは「量」より先に「力」から来る、という話。
- 「年のせい」だと、諦めていませんか——筋肉という、見えない臓器。『筋肉が全て』を読んで。
- 「最近太りやすくなった」は年齢のせい?——年代別に見る筋肉の減少と、今やるべきこと。
※本連載のタイトルは、宮田珠己『衰えません、死ぬまでは。』(幻冬舎、2026年)へのオマージュです。同書の本文を引用したものではありません。
※参考:Lexell J et al. J Neurol Sci. 1988;84(2-3):275-94./Skelton DA et al. Age Ageing. 1994;23(5):371-77./Moritani T & deVries HA. Am J Phys Med. 1979;58(3):115-30./Henneman E et al. J Neurophysiol. 1965;28:560-80./Chen LK et al. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2(AWGS 2019)/Asian Working Group for Sarcopenia 2025(Nat Aging. 2025;5:2164-2175)/厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
※本記事は一般的な科学的知見を紹介するものであり、特定の疾病の予防・診断・治療を目的とするものではありません。記事中の握力・歩行速度の基準値は研究・診療で用いられている目安であり、自己判断の材料ではありません。効果には個人差があります。既往症のある方、通院中の方は事前に医師にご相談ください。